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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第10章 黒山羊さんからのお手紙


「そなたが如月泉か」

 わたし達の後ろに居たのは簪を沢山つけた花魁のような美しい和服の美女。

「私は尾崎紅葉。一寸した幹部じゃ。これから宜しゅうなぁ」

 ニコリと笑う彼女に、わたしは慌てて頭を下げた。

「は、初めまして! 如月泉と申します。紅葉さんの部隊に配属になりました。これから宜しくお願いします」

 そう云ってお辞儀をすると、「ほぉ」と紅葉さんが感心したように頷いた。

「礼儀はなっておる様じゃの」
「あ、有難う御座います」

 そんな風に褒められた事があまり無かったわたしはへへっと笑みを浮かべた。

「あ、姐さん。俺は仕事があるので失礼します」

 またな泉。中也さんはそう云ってわたし達からするりと離れた。「行ってらっしゃい」と紅葉さんが手を振る。わたしも「有難う御座いました! また後で」と大きく手を振った。

「さて、そなたの異能は何じゃ?」

 中也さんの姿が見えなくなると、紅葉さんは歩き出しながらわたしにそう問うた。

「『蛍の光』……治癒異能です」
「ほぉ、治癒とな。詳しく説明せよ」
「はい。直接触れた相手の傷を自分に移すことで、相手の傷を治すという物です」
「自らを犠牲に他者を治すとな。……何か武道や射撃は会得しておるか?」
「横浜を離れてから少しだけ銃の使い方を習いました。後は護身用に小型のナイフを」
「ほぉ?」

 紅葉さんがニヤリと笑った。あ、何か悪い予感がする。

「ならば見せてもらおうかのぅ」

 言いつつ紅葉さんは部屋の扉を開けた。其処は耳当てと拳銃、的が在る射撃場と格闘場が一緒くたになっている、云わば訓練場だった。
 紅葉さんは十m程の距離にある的を指さし、わたしに置いてあった拳銃を手渡した。

「彼処に的が見えるじゃろ? 此の銃であの的を撃ち抜いて見せよ」
「!」

 わたしはグッとグリップを握りしめた。ふぅっと深呼吸し、目を開ける。腰は少し落として前傾姿勢。肘と膝は伸ばしきらない。脇は軽く閉じて、左手は添えるだけ。

 セーフティを解除し、わたしは引き金を引いた。

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