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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第15章 生命を司る樹


 プツリと一度無線が切れ、また繋がった。今度は可愛らしい少女の声が響いた。

『……私が止める』
「鏡花ちゃん!?」
『軍警の無人機をぶつけて、白鯨を海に落とす』

 鏡花ちゃんの決意は固く、わたし達の言葉などでは揺らぐ事は無さそうだった。

「……今から自分がやろうとする事、判って言ってる?」
「そうだよ鏡花ちゃん、今からでも遅くない! 機体から脱出を」

 だが鏡花ちゃんは是と答えることはしなかった。

『足に鎖が付いてる。脱出用のパラシュートまでは届かない』
「そんな! じゃあ何か他に方法を」
『善いの。三十五人も殺した私でも、横浜を守れるって証明したい。殺人鬼でも人を守る事が出来るって、見せたいの』

 だから私が止めると。例え其れで死のうとも、皆を守れるならば本望だと。鏡花ちゃんは其れだけ云い、無線を切った。操縦室に静寂が訪れる。
 くるり。最初に動いたのは龍だった。

「行くぞ。白鯨から脱出する」
「……そうね。早く逃げないとわたし達も危ないわ」

 ハーマンさんが脱出用のパラシュートの場所へ案内してくれる。彼に続いて龍が歩き出し、わたしも其れに続こうとした。だが、来るべきもう一人が来ない。わたしは二人に背を向けて操縦室に戻った。

「敦くん?」
「泉さん……。如何して鏡花ちゃんが死ぬ必要があるんですか?」

 鏡花ちゃんは確かに罪を犯してる、そして人の為に散るその姿は美徳だ。頭では判っている、けれど感情が其れを認めない。とても分かり易い思考回路だ。
 わたしは感覚の無くなった足を右左と前に進め、彼の目前に立った。敦くんの目を真っ直ぐ見つめる。瞳に浮かぶ色は怒り、哀しみ、喜び、色んな感情が入り混じっていた。
 わたしは其れを確認した後、勢いよく彼の頬を引っ叩いた。

「いい加減にしなさいよ」

 思えば此処まで本気で怒ったのは仮面男と対峙した時以来だ。そして怒りを彼に向けるのは初めて。敦くんはわたしの怒り様に困惑しているようだった。だけど此方ももう限界だ。わたしは構わず云い放った。

「鏡花ちゃんは命を懸けて横浜を守ってる。街にいる皆やわたし達を助けたいから。其れを何? 貴方はこの白鯨に残って一緒に死ぬの? 」
「其れは、」
「鏡花ちゃんが救いたい、守りたいと一番に考える貴方自身が此処で死んだら、其れこそあの子が死ぬ意味は無いでしょう」

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