第3章 Tの決意
カンタとは違い、トミーはすぐに自分のナマエへの感情が恋だと気がついていた。だからといって当時学生だったトミーには、実際に男同士で付き合うという勇気はなかった。可愛がられている後輩として傍にいるほうが、恋人よりも遥かにリスクは低く、長く一緒にいれると思ったから。だからトミーは普通の学生のように彼女を作ったし、ナマエの彼女を紹介されても特に嫉妬することはなかった。
しかし、それは相手が女だったからであって、目の前で好きな人が自分ではない男と至近距離でいればさすがに嫉妬する。それが相方であるカンタであっても、だ。
「おーいー、何やってんのお前?」
「ちょっと静かにして、起きちゃうから」
飲み会から帰ってくるとリビングの明かりが点いていたため誰かいるのかと覗いてみると、ソファでうたた寝するナマエと、それを間近で覗き込むカンタがいた。
カンタが夜な夜なナマエの部屋に忍び込み寝顔を眺めていることは知っていたが、実際に目の当たりにしたのは初めてだった。まさか共用スペースでもするとは思わなかった。
「それ覗き込んで何やってんの?」
「寝息を感じてる」
「変態じゃん。きっもちわりぃ」
「あと、念じてる」
「は?何を?」
「もうどこにも行かないでって」
「・・・ふーん」
ナマエと音信不通になったと同時に恋心を自覚したカンタは、その状況にいたく絶望していた。可哀想だと思うほどに。絶望の中焦がれ続けた結果、ナマエに関してだけカンタは少し歪んでしまった。
しかしトミーも、カンタと同じことを思っている。もう、目の前からいなくならないでほしい。