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ロミオとジュリエットは何故不幸になったのか【エルヴィン】

第12章 取引





「ありがとうございます。エルヴィンさんのご厚意は
本当に有り難いです。でも当日私はエルヴィンさん無しで
逃げます。エルヴィンさんをこれ以上煩わせたく
ありませんので・・・」


握られた手を強く握り返して、私は精一杯の笑顔を
エルヴィンさんに向けた。

「これがエルヴィンさんの温もりかぁ・・・」と
名残惜しさを覚え「これが最後なんだし」と一歩前へ
出て彼の懐に飛び込む。

ぎゅっと抱きしめたエルヴィンさんの身体は逞しくて、
私が選んだ香水の匂いが鼻腔内を擽った。

そしてポケットから取り出した整髪料の容器を、
彼のジャケットのポケットへ忍ばせ、身体を離した。


「それでは、さようなら」


今度こそ私は振り返る事無く、その場から走り出した。

エルヴィンさんの顔を見れば甘えを
見せてしまうかもしれないからだ。

走り出した先はダリウスさんのお店ではなく、
貴族から平民に変装するため借りている一室で、
そこに駆け込む頃には涙が溢れて止まらなかった。


これで調査兵団を守る手は全て打ったはずだ。
あとはエルヴィンさん次第だけれど彼なら
きっとやり遂げてくれるだろう。

これで良いと思うのに涙が止まらない。
もうお店に立つ事が出来ないから?
エルヴィンさんとランチを楽しめないから?

ううん、違う。
貴族の性質を憎んでいたはずなのに、
私は結局貴族のやり方でエルヴィンさんを
利用する真似をしてしまったからだ。

あの人は・・・エルヴィンさんは時々自虐的に
なっていたけど、彼は高潔な人だったと思う。

薄汚い欲望渦巻く貴族達と渡り合う事が
出来る稀有な存在だった。

そんな人を利用して・・・私は何と
さもしい人間なのだろう。

調査兵団を守るんじゃなくて自分を守っただけじゃないか。


「ごめんなさい。エルヴィンさん・・・」


気の済むまで泣き明かした私は貴族の仮面を
顔に貼り付けて、自分の戦場へ戻った。



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