第1章 Pensami!【ジョルノ】
「チヒロ」
「なあに、ジョ───」
振り返りざまジョルノ、と呼びかけようとして、固まる。
足音も無く、彼はいつの間にか自分のすぐ後ろに立っていたのだ。チヒロが驚きに目を見開くのと同時に、ジョルノは更に距離を縮めた。
彼の長い睫毛に縁取られた瞳、整った鼻梁、美しい形の唇が、一度に目に飛び込んでくる。黄金色の髪がふわりと揺れた。
「な………な、に、?」
視線に射抜かれながらやっとの事で絞り出した声は、自分でも情けなくなるほど、蚊の鳴くようなものだった。
「チヒロ」
更に近く、睫毛と睫毛が触れ合いそうな距離で、ジョルノは囁いた。
「僕と一緒にいる時くらい、僕の事を考えてください」
「な」
「…可愛い人だ、貴女は」
クスリ、と微笑めば、面白いほどにチヒロの頰が真っ赤に染まった。あまりに突然の出来事にもはや声も出せないらしく、半端に開いた唇が小さく震えている。
「フフ…冗談ですよ。こうでもしないと休憩してくれないと思ったもので」
嘘のようにあっさりと身体を離すと、そのまま彼女に背を向けてキッチンに向かう。
「紅茶を淹れましょう。持ってきますから、ソファに掛けて待っていてくださいね」
そう声をかけられても、チヒロは未だ惚けて立ち尽くすばかりだ。
「ああ、それから」
今度はジョルノが悪戯っぽく振り返った。
「可愛い人だ、と言ったのは…冗談じゃありませんから」
「…〜〜〜ッ!」
サラリと言ってよこした爽やかな笑みに、もう限界、とばかりにへたり込んでしまう。
なんて事だろう、自分よりいくつも年下の、しかもチームの後輩に、こんな気持ちにさせられるなんて。
まだ幼さの残る少年だと思っていたのに。
見つめられた瞳はあまりにも美しく澄んで、強い意志を秘めていて───
意識などしていなかったのに、するつもりだって無かったのに。
自分より高い背丈や、一見華奢だが均整のとれた身体つきに、気づいてしまった。
ああ、ジョルノが戻ってきたら、一体どう接すればいいのだろう?
やっとの思いで辿り着いたソファで、チヒロは頭を抱えた。
END of chapter
→To Be Continued…