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海賊夢

第1章  エネル


暗かった部屋がほんの一瞬、あの人に包まれた。
明日はせっかくの休み。思う存分目一杯寝るつもりで早く布団に入ったくせに眠れない今日。睡魔の天邪鬼さを呪いながら羊をここまで数えてきたけれど、あーあ、リセットだ。
「いち、に、さん、よん」
よんと言い終わってすぐに轟く雷鳴。1キロちょっとのところに落ちたらしい、あの人の裁き。


けれど、ここは青い海の世界。
稲光と雷鳴は、あの人には全く関係のないところで作り出されたただの空模様だ。


私が知っているあの人は本当に気まぐれで『船にりんごの積荷があったから』という理由で私を見逃して、あまつさえ、戯れに屋敷に置いた。麦わら帽子の彼らが来てくれるまでその気まぐれには随分と振り回されたけれど、鐘の音と共に訪れた自由はやっぱり突然すぎた。

『雨?空からなぜ水が落ちる?』

窓を叩く雨すら知らなかったあの人を思い出す。まぁ、当たり前か。空の上で生活してたんだし。でも空の上でりんごなんてどうやって手に入れてたんだろう。貿易ルートがあったのかも。だったら、うちの会社で引き受けたのに。神さまにりんごをお届けした実績がありますって。あぁ、打算的になっちゃったな。

絶え間ない雨音が一層大きくなって、ぷつんと思考が途切れる。
分かっていた。波打つ海に揺れる船の上で乗組員と喜びを分かち合って、1週間も経てば愛おしき日常が戻ってくると思っていたけれど、不信心な私も、さすがに信じずにはいられなくなっていた。

聞こえるはずがない、けれど、一言物申したってバチは当たらないでしょ。

「神さま、あなたは奪っていった」

こっちに帰ってきてから、思い出すあれこれ。
変な笑い方。変な長い耳。変な濃い眉毛。

『ここへ来てから、一度もお前は私を呼ばない』

気怠げにこちらを見下ろした瞳のふちの、綺麗な下まつげ。
そして、あの言葉の意味。
何度も何度も考えた。

見かけるとついつい買ってしまうりんごがダイニングテーブルの上でぼんやりと明るい。

「あーあ、助けてくださいよ。エネル」

おかげで眠れやしない。
目が冴えて、ベッドに体を起こす。水を飲もうとスリッパに足を入かけた時、稲光が走った。
「いち、」

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