第11章 珪線石の足音

「ところでその、おまえの方の事情は？何か俺に言えそう？」

『へ？』

「いや、なんで驚くんだよそこで」

『い、や……聞かれると思ってなくて』

「なんで？」

『…………考えたこと無かったから』

相変わらずの頑張りすぎ屋さんをよちよちして両腕で抱きしめた。
ああもう、ほんと赤ちゃんじゃねぇのこいつ、遠慮とか以前の問題だ。

強いて言うなら諦めとでも言えばいいだろうか。

「やってみたら何か変えられるかもしれねぇだろ？」

『でも、危ないし』

「それは俺が出しゃばって尚危ない状況になっちまうわけ？」

『……それは、視てないけど』

「ほらな。おまえは心配しすぎなんだよ、俺の方が強いんだから頼りゃいいの」

『でもその、こっちの深い事情に中也さん巻き込むのはなんか違うし』

なんで、と聞くと、ここから始まるものこそ遠慮心である。
いい子ちゃんなのはいいけれど、こういう時は考えものだ。

「あのなぁ、おまえが困ってて何かしてやりたいと思うのは、何も俺だけじゃないんだぞ？そこんとこちゃんと分かってっか？？」

『えっと……？』

「おまえのこと助けたがる人間ならいっぱいいるっつってんだよ」

『…………その、でも……“最終的に”勝つためには、私よりも他の皆が優先かなって』

妙な言葉回しを疑問に思って聞いてみると、彼女の中で既に“作戦”自体は出来ているそうで、その内容に黙らされる。

『私が生き残るためにはね、一回死んだ方が確実なのよ』

「……自棄になってるわけじゃねえな？」

『な、なってません』

「ならいい、続けろ」

『……私が嫌だったのは、中也さんが……死んじゃう、のと…………会えなくなるのが、やだったから』

本当に俺のことしか考えていなかったらしい。

『数分でも耐えられなくなってるのに何年もとか有り得ないし……それに多分、その先で中也さん私のこと護ってどの道死んじゃうし』

「要するに、俺がどこかの時点で死ぬのは確定してんのか？」

『そ……、』

「…………嫌なもん視せたな、悪い。それ以上視んな」

思っていたより、考えていた。
その上で絶望していた理由は、どう足掻いてもどこかのタイミングで俺を死なせてしまうのが嫌だったから。

まあそりゃ考えてるか、俺より頭良いし……太宰の育てた女だもんな。

『み、見えない』

「もう視てない？」

『ん』