第4章 魔女の正体
ミホークの船にナマエを乗せることになったが、如何せん船は一人用である。乗れないこともないが、かなり不自由な航海になるだろう。
そのため、ひとまずミホークが住み処としているクライガナ島へ行き、ミホークの海賊行為には一切加担しなければ同行もしないということにした。ナマエはクライガナ島のシッケアール王国跡地に住むことになる。その方が海軍も安心だろうというわけだ。
「この島の警備については心配しなくていいよ。周辺の島も合わせて新しく駐屯所を作って取り締まりをしていくことにするから安心しな」
「ありがとうつる中将。よろしく頼む」
「話は済んだか。早く乗れ」
軍艦につないでいた棺船を準備していたミホークがナマエを呼ぶ。
ナマエはその船を見て苦笑した。なるほど、たしかに狭い。
「クライガナ島までは数日掛かる。鷹の目、食糧をあげるから積めるだけ積んでいきな」
「もとよりそのつもりだ」
結局ナマエの乗るスペースは、食糧と水を限界まで積んだおかげでかなり狭くなったのだった。
この世界に来て初めて海というものを見た。
どこまでも青くきらきらと続く水平線に、狭いスペースに膝を曲げて座っていることも気にならないくらい夢中になった。
「美しいな、この世界は」
思わず出た言葉に、ミホークは瞑っていた目を開けた。
ミホークの金色の目にも、青い海が映る。
「この海にはたくさんの血が流れているぞ」
異世界人のナマエでもそれは分かる。平和な世界には物騒な武器も、ミホークのような強い人間も必要ない。
大海賊時代を迎える前から、この世界ではたくさんの血が海へと流れているのだろう。
「それでも美しいよ。海が生きているみたいだ」
「海が血を吸うバケモノみたいに言うな」
なんだそれ、とナマエはふふっと笑った。はたから見ると微かに吐息が漏れただけだったが、ミホークはそれが笑みだと分かった。
「主の表情を、豊かにしていきたいと思う」
「表情?」
「元の世界で何があったかは知らんがせっかくのその顔だ。もっと感情を表に出せ」
「それはお互い様だろう、鷹の目。あんたが目一杯笑ってくれたら、私も表情豊かになるよ」
「可愛げのない娘だ」
ナマエはまたふふっと先ほどの様に笑った。