第5章 真白な涙
それから何時間か村の周辺を歩いたが、噂以上の手掛かりは得られなかった。
そろそろ陽も落ちようかという時刻。
大きく広がる夕日が目の前に見える小山で、鬼灯はそばにあった大きめの石に腰を下ろした。
「…」
死体消えたのはどうやら本当らしい。
村人の噂話だけではらちが明かず、姫の屋敷まで行ったが、それはもう大慌ての様子だった。
野良犬か、妖怪に喰われたか。
もしくはどこかのもの好きが盗んだか。死体に使い道があるとは思えないのだが。
そのうち見つかるだろうと高をくくって、今回の発見を諦めるのもありだろう。
適当な獄卒に任せればいい。一人の亡者の捜索を、私の人件費を使って行うのは組織運営上適切ではない。
そんなことを頭の片隅に思いながらも、鬼灯は姫の行き先を考える。
噂話を聞きながら、『人形』と呼ばれた彼女に興味を持ってしまったのが正直なところだ。
休憩ついでに目の前の夕日をぼーっとながめていた鬼灯は、自分より少し下った先に、影が見えるのに気がついた。
「あれは…?」
鬼神である自分だからわかる。
夕日の光ではなく、鬼火の光に照らされる1つの影。
まさか、と思いつつも、鬼灯は荷物を左手でひっつかみ、その影のほうへ向かった。
***
「…」
「…」
やはりそうだ。
鬼火に照らされていたのは、噂で聞いた容姿と同じ女性の姿。
いや、女性というか、まだほんの少女だ。
背後1mの距離まで近づいても、彼女が鬼灯を振り返ることはない。
まっすぐ夕日のほうを見つめて微動だにしないのだ。
気付かないのか…?といぶかしんで、更に近づき横から顔を覗いてみる。
「…あ」
「…」
なおも正面を見据える彼女は、ただただ涙を流していた。
拭うこともしないので、その瞳から流れ落ちる水滴は、ただただ重力にまかせて次々と落下していた。