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【文スト】青空の憂鬱、記憶の残響【中原中也】

第7章 サーカス







「戦争が、はじまるかもしれねェ」

「……うん」

「頼む。──組合 <ギルド> に関する情報を、知ってる限りで教えてくれ」

「……うん」



その日、綴は困り顔の中也と対峙していた。情報屋としての綴を最大限利用しようというのだろう。ほかならぬ中也なら、綴はそれもいっこうに構わなかった。

組合については、海外組織ということもあり、綴の情報網をもってしてもわからないことの方が多かった。それでもさすがヨコハマ一の情報屋。ほかの誰より情報を掴んでいる自信がある。

けれど、綴にはこの情報を森に伝える気はなかった。〝わたしは組織に隷属しているわけではないから〟と言い訳をしながら、本当はただ森に利用されるのが厭なだけである。それでも、こんなささやかな抵抗でさえも森の手中なのではと、考えては頭を振った。

とにかく、森には情報をタダでくれてやるつもりはない。間に金銭が発生する場合はあくまで〝商売〟なので割り切れるが、綴にとってもはや森は親代わりでも何でもなかった。




──中也なら、話は別だけど。




「金なら払うが」

「お金なんて要らないよ。中也が望むなら、わたしは与え続けるのが本望だからね」

「……そうか」




綴は掴んでいる限りの情報を伝えるべく記憶した資料を思い浮かべた。




──

中也が困り顔なのは、きっと森からの指令だからだ。それでも、中也からの頼みを断るすべを綴は持たない。中也の望むすべてを与えたいと思っているから。

たとえ伝えた情報のすべてが森に伝わってしまったとしても、綴は後悔しないだろう。……恨みはするが。中也の役に立てるなら。その一心で、綴は情報屋を続けているのだから。




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