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お前は俺の女神

第1章 お前は俺の女神


 彼、有栖川帝統はその日のGⅠレースを楽しみにやって来た。
 渋谷ウインズのモニター直下。競馬新聞を開きながらぶつくさ呟いていた帝統が、やめたやめたと首を振って顔を上げた。
「あ~やっぱ血統だの何だのしゃらくせぇ! それよりもっと、ビビっと直感的に来るような馬は……」
 溜息を吐きながらターフビジョンを見上げた帝統が、パドックを闊歩する馬たちを凝視する。
 馬体重、肉付き、馬のご機嫌、前レースの成績。
 あれこれと解説するテレビの音声を鼓膜から聞き流していると、ふと、一頭の馬が目に留まった。
「シブヤノマルキュー、って初めて聞いたな。今日がGⅠデビューか、なら知らないはずだ」
 シブヤノマルキューと呼ばれる毛並みのいい牝馬は、そわそわと落ち着かない様子で調教師に引っ張られている。
 けれどその肉付きや馬体の瑞々しさ、何より彼女の名前が帝統は気に入った。シブヤノマルキュー、名前も見た目も中々かわいこちゃんじゃねーか。そう言って口笛を吹いた帝統が、今一度競馬新聞に視線を落とす。
「うっわ、ひっでぇオッズ」
 成績やら血統やらは相変わらず見る気も起こらなかったが、唯一目に留めた倍率は酷いものだった。
「けど逆にこいつに賭けて当たれば……結構デカイよなぁ」
 デカい、という自身の言葉ですっかりギャンブル魂に火がついてしまったようだ。
 よしと馬券売り場に駆け寄った帝統が、財布をバンと叩き付け……。
「シブヤノマルキューの単勝馬券をくれ、財布の中身全部でだ!」
 謎の自信を讃えた大声で、シブヤノマルキューに手持ちの全額を賭けたのだった。
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