第1章 Fate短編・SS
思い出す。
ただ一度だけ主と二人きりで話をしたあの星のきれいな夜を。
『ねぇ、ディル』
「何でしょう、我が主」
『もし二人とも生まれ変わって、
ディルにも呪いが無くなったら恋人同士になれるかな』
「…ええ、きっと」
思い返せば居心地の良かった彼女からの愛は気遣いからだった事に気付く。
そしておそらく、あのやりとりをソラウは見ていたのだろう。
独占欲が勝ったのかソラウは血の繋がった妹の腕を切り落とそうとした。
ケイネスによる妨害と妹の多少の抵抗を予想していたソラウは、
勢いよく力任せに剣を振り下ろしたのだった。
ケイネスの妨害はあったが予想に反してマスターは無抵抗だった。
勢い余って剣は名前の心臓に突き刺さり数分の間もなく絶命した。
このソラウによる計画的な犯行は俺の単独行動中を見計らって行われたもので、
事の始終は放心状態の当の本人の方らで、
妨害が成功し得なかったケイネスから聞かされた。
主の危機を感じる前に予感があった時点で対処しきれなかった己を恨みつつ、
うっすら体温の残る主の亡骸をそっと抱きしめる。
主が死んだ事により霊素が消滅しかけているのを感じながら、
願おうとしたのは聖杯への怨み。
聖杯に呪いあれと強く願ったその瞬間、
主の目から一雫の涙が溢れ、星の光によって煌めいた。
ふと空を見上げれば流れ星がひとつ。
ああ、あれはきっと星の流した涙なのだろう。
さっきまでの強い怨みは消え、流れ星と共に俺は霊基を返還した。