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最愛 【黒子のバスケ】

第8章 それぞれの場所


side Patrick

今から11.2年前、学校行事でロスの学校にあたしの当時担当していたアーティストが行くことになってもちろんあたしも行った。
アーティストが一人で歌った後に生徒の中から何人か指名して一緒にステージで歌うことになった。

歌いたがった子もいたけどそのアーティストはなぜかみさきを選んだ。

当時から小柄で華奢だったけど度胸はあって突然のステージにも臆することなく上がって東洋人とは思えないほどの綺麗な英語と正確な音程、感動すらする程の歌声だった。

裏から見ていたあたしにも分かるほどだったからアーティストは驚いてみさきを歌手になりたいならサポートすると誘っていた。
それでもみさきははっきりと意志の強い声で『あたしはメイクアップアーティストになりたいの』って答えた。


歌手にって誘われたら裏方のメイクより歌手になりたいと思う人が大多数だと思うけどみさきは何の迷いもなくメイクになりたいと言ってそれを断っていた。

そして数年後にあたしの事務所にマネージャーが音を上げるくらいしつこく手紙を出してくる女の子がいると言われた。
その子はモデルにも応募してきてるけど体格がモデル向きじゃないから一度会って諦めるように言って欲しいとのことだった。

応募用紙を見るとあのステージで歌った子によく似たティーンが写っている。
まさかとは思ったけど会って見ないことには分からない。

事務所に呼んで『失礼します』と声を聴いた瞬間にあの時聞いた『メイクアップアーティストになりたいの』という声とオーバーラップした。

そしてドアを開けて入ってきたみさきを見て確信した。

仕事に対するやる気を見たくてまずはモデルをやらせたけど、それまで順調だったのにあるカットで泣きだした。きっと何か辛い経験でもあるのだろうと察しはついたけど辞める訳にはいかないから何度も撮り直しをさせた。
全然OKを出せなかったけどなんとかやりきろうとするみさきを見て弟子にすることを決めた。

この子程の度胸と熱意があればきっと素晴らしいメイクアップアーティストになる予感がした。
仕事の合間にも、病院でメディカルメイクをさせたりと、色々なメイクを教えてきた。

そしてあたしの予感は的中した。
今はまだ私の方が上だけど、いつ追い抜かれるのかしらね。
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