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彼女と彼の1年間

第3章 花見


 
 「キッドさん、すみません・・・今日も外での仕事です」

4月に入ったころ、申し訳なさそうに菜月が言った。
デジャブのようだ・・・とキッドは嫌な予感しかしなかった。

それが顔に出ていたようで、菜月は一応キッドの思惑を否定した。

「あ・・・今回はユージンの仕事ではないです。お留守番も・・・えっと・・・キッドさんさえよければ、一緒に来ませんか?」

と、どうやら、今回はあのペテン師・・・もといユージンは無関係のようで、ひとまず安心した。
しかし、絵心のない自分がついて行っても邪魔なだけではないかと、キッドは思った。

「今日は、公園でイベントがあるんです。いつも占い師の捜索で気が滅入ってると思うので、気分転換にどうですか?」

という菜月の気遣いだったのだ。
屋台もあって、普段は食べないものが味わえるとか、そういう話を聞けば興味もわいてくる。

キッドが頷けば、菜月も顔を明るくした。
準備をして、目的地まで一緒に行けば・・・そこにはやはり、あの男が待ち受けていた。

彼を見るなり、菜月は頭を下げた。

「すみません、キッドさん。イヤでしたらすぐにでも帰ってもらっても・・・」
「・・・いや、いい。お前ぇの仕事ぶりとやらも見ておきたいしな」
「・・・いえ、見るほどのものではないかと」

謙遜する菜月に、キッドはそれでもいいと言う。
この前描いていた、花の絵をキッドは忘れることはなかった。

この公園での仕事は、何をするのだろうと期待すらしている。

そんな二人を気にせずに、ユージンがやってきた。

「やっほー、奇遇だね!キッド君、たこ焼き食べるかい?僕はあっちでお花見してるから、おいでよ♪」

そして、遠くの方でユージンを呼ぶ声がした。
どうやら、彼は彼で連れがいるようだ。
それなりに、盛り上がっている。

それを遠目に見て、菜月はユージンとは逆の方向で仕事の準備に取り掛かった。
商売用の紙と、絵を描く道具を広げると、ちょこんと芝生に座り込んだ。

立っているキッドを見上げて、財布を渡す。

「私はここで仕事をするので、キッドさんはこの辺を散歩してきてください。食べたいものがあったら、私の財布使ってください」
「・・・これが仕事か?」
「はい。まだお客さんはいませんけど」
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