第2章 仕事
キッドがこの世界に来てから、菜月の生活が少しだけ変わった。
仕事に加えて、家のことをすることが多くなった。
二人分の食事、二人分の洗濯、二人分の買い物など…
それと、占い師の捜索。
ユージンの得た情報を頼りに、キッドを連れまわしてるが空振りなことがほとんどだった。しかし、成果はなくとも、キッドにとってはこの世界は物珍しくて、退屈することはなかった。
しかし、彼は彼で、気になることはある。
「おい、大丈夫なのかよ?」
「なにがです?」
言いづらそうにしていても、キッドは菜月が心配だった。
不自由することなく生活できるのは菜月がいてくれるからこそできるというものだ。
突然現れた自分に、何故菜月は協力的なのだろうか。
そのことを含めて菜月に問うが、菜月はあまり深く考えていない様だった。
「お金のことなら心配しないでください。働いてますし。キッドさんがこちらの世界にきてしまったのは、所謂不慮の事故といったところでしょう。悪いのは占い師さんですから」
それでもキッドは納得できない。
渋る彼の顔をみて、菜月は続けてこう言った。
「んー、じゃあ、交換条件にしましょう。もしも、私がキッドさんの世界に行ってしまったときには、その時はよろしくお願いします」
「ふん、生きるか死ぬかの世界だぜ?よろしくお願いされる前に、お前なんざ、生き残れる気がしねぇな」
素直になれない自分に嫌気がさすキッドだが、菜月はキッドの答えに笑みをこぼした。
「いいですね。刺激のある世界か」
だが、生きるかし死ぬかという状況が、毎日続くとはどういうことなのか。平和に過ごしている自分には到底想像できるものではなかった。わかることといえば、死への恐怖くらいか。
「海賊をなさっているんですよね?どんな船なんです?航海ってどんな生活なんですか?」
すごく興味があるのはキッドにもわかる。
だが、きっと菜月が思っているような楽しいことばかりではない。
数日間、この世界で生活をしていて嫌でもわかること。
菜月とキッドでは、住んでる世界がまるで違う。
キッドが何人も人を殺してきたといえば、菜月はどんな反応をするのだろうか。
キッドはため息をついた。