第1章 占い
バレンタインも終わった寒い夜。
菜月は、帰路を急ぐ。天気予報では曇りだといっていたのに、このままでは雨が降ってきそうなくらい、頭上ではどんよりとした雲が広がっていた。
この寒さを利用したか、バレンタインのせいか、目につくカップルは身を寄せ合っていた。
だが、そんなことも目もくれずに、菜月はとある場所を目指していた。
いつのまにか、菜月は小走りになった。小雨がパラパラとちらついてきたのだ。これが雪に変わらなければいいのだが、今までの人生経験上、そこまでの心配はなさそうだ。
家まで、あと少し。商店街のアーケードを抜ければ、もうすぐだ。駅の改札口から、空模様の不安を感じこの商店街めがけてきた。もちろん、帰り持ちだからという理由もある。
それともう一つ。この商店街をよりたい気持ちがあった。
「こんばんは、1か月ぶりです」
菜月が声をかけたのは、いかにも胡散臭い占い師だ。
いろんな色の石のネックレス。サイズの合わない指輪。中央には占い師特融の大きな水晶玉。この人間を知らなければ、近寄ろうともしないだろう。占いなんて、所詮外れることのほうが多い。それでも、菜月とこの占い師は気が合うようで、彼女が困ったとき、行き詰った時に見てもらうと不思議と、物事が解決したり、いいことが起こる。何よりも菜月の気持ちが晴れるのが一番いいことだった。
この占い師は、商店街の隅の方でひっそりと営業している。菜月は月に1度のペースで通っていた。特に何もなくとも、この占い師と話したいというだけでおとずれることもあった。
「おやおや、懐が潤ってるようだのう」
「ええ、おかげさまで…ね」
「ひっひっひ。オラはきっかけを与えたにすぎんよ」
占い師は年齢性別不詳。おじいさんとも見えるし、おばあさんとも見える。だが、佇まいや雰囲気、口調などからして、かなりの高齢者だとうかがえる。でも、菜月にとって、そういうことはどうでもいいのだ。目の前にいる占い師は、菜月を何度も救ってくれたのだから。
「さぁ、今日は何を見ようかの」
ジィっと、菜月を見つめるその目は、吸い込まれそうで、見つめ返してしまう。