第2章 もしもの話 *ジャン 切/甘
『みて、また鳥が飛んでる』
そう言って見つめる先には、青い空と高く飛ぶ鳥、そして私を見下ろすあなた。
「ったく、今日もここかよ…ほんと飽きねえな」
『そんなこと言って、ジャンったらいつも私のこと探しにくるくせに』
「るっせーな…で、今日はなんだよ。」
『うん、今日はね…』
もし身の回りのなにかが今とは違ったら、この世界はどう変わってしまうんだろう。
そんなくだらない私の疑問に、昨日も一昨日もその前も、この人はここで同じように話を聞いてくれている。
蛙がいなかったら、太陽がなかったら。
アルミンの言う、"うみ"が本当にあったなら。
ああ、昨日はどんなことを話したっけな。
そんなことを考えながら口にしたのは、彼に促された今日の質問。
『もしも…もしも私が次の壁外調査で帰ってこなかったら、どうなるかな?』
別に特別な意味はない。私のような調査兵が言うからそんな意味を持ち得るだけなのだ。
というより、今まで話題に上がらなかったのが不思議なほどの話だ。
そんなことをぼんやり考えていると、ガサゴソと隣に彼が座る。
「…………きっと、何も変わんねえよ」
『ふうん、そっか』
「ああ、何も。調査兵1人が行方不明になったところでな。」
『うん、そうだね』
「そうだ」
会話が途切れ珍しく居心地の悪くなった私は、彼にさらなる質問をする。
『うーん。じゃあさ、その時あなたはどうする?』
「オレ?
オレは…風にでもなろうかな」
『どうして風?』
「だって、お前は鳥になるだろ?
それならオレは風になる」
『鳥と風になんの関係があるのよ
それなら、一緒に鳥になったらいいんじゃない?』
「そうじゃなくて
お前が鳥でオレが風なら、お前を運んでやれるだろ?」
『運んでもらわなくても、鳥は自分で飛べるけど』
「まあ、それもそうだな」
『そうよ』
顎に手を当て、彼は考え込む。
「風以外に何かと言われても、何も出て来ねえぞ…」
『ふふっ』