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【イケメン戦国】零れる泡沫*恋奏絵巻*《企画集》

第2章 〖誕生記念〗揺れる桔梗と初染秋桜《前編》/ 明智光秀





「光秀様、こちらにおりましたか……!」



と、その時。
城の中からこちらに誰かが走ってきた。

そいつは息を切らせながら、俺の傍で膝を折り……
そして、深く頭を垂れた。




「……九兵衛か」

「光秀様、急ぎの報せを持って参りました」

「急ぎの報せ?」

「はい、例の紀伊國屋静馬についてでございます」




『紀伊國屋静馬』
その名前を聞き、思わず耳がぴくりと動く。

今、一番聞きたくない男の名前だ。
しかし、奴についての『急ぎの報せ』とは……

……嫌な予感しかしないのは、気のせいだろうか。




「話せ」

「はい…光秀様、お耳を失礼致します」




すると、九兵衛は立ち上がり……
俺の耳の傍で、急ぎながらも落ち着きを払った口調で話し始めた。








「え……?」








それを聞き、己の口から間抜けた声が出る。
九兵衛が知らせてくれた『急ぎの報せ』は。
俺の血液を逆流させたように、カッと頭に血を上らせ……

それに反して、身体を冷水を浴びたが如く冷やした。

そして、先程美依と交わした言葉が頭の中を回り。
それが『真実』なのだと、俺の中で意味づけた。




「九兵衛、よくその情報を掴んだ」

「どうなさいますか、光秀様」

「……勿論、決まっているだろう」




俺はギリッと歯を噛み、目を細めると。
常に腰から下げている、火縄銃に手で触れた。

九兵衛の言っている事が、真であるなら……
それを阻止してやれるのは、自分しかいない。
俺が、守ってやらねば──……






(美依…………!!)






「お前は事の次第を秀吉辺りにでも話して、応援を頼め」

「畏まりました」

「俺はすぐさま静馬を後を追う、馬を用意しろ」

「はいっ!」




九兵衛が一礼して駆け出し、俺はその後ろ姿を見ながら、燃えたぎる心を押さえるように胸の辺りを掴んだ。

九兵衛が掴んできた情報。
それは俺の嫌な予感を見事に的中させていた。

危険だから、会うのはやめろと言ったのに……
俺の忠告を聞かない、愚かな小娘。

恋は盲目。
惚れた弱味に付け込まれ、我が身を地獄に落とすなど。

本当に──……
お前はどこまで純粋で、それ故に馬鹿を見る?






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