• テキストサイズ

第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第2章 第二章「深化列車036」


 目が覚めた...、それと同時に数多くの異変に気付いた。前に並ぶ二人用と思われる赤く黒ずんだ座席。天井の鉄棒には茶の吊革があり、不自然に揺られている。どうやら、ここは鉄の箱の中らしい。窓の外は真っ黒にクレヨンで塗り潰されているようだった。
「フィ、此処って何処なの...。家...じゃないし、 夢の中?」
水月ちゃんは、軽く口を開いたまま辺りを舐める様に見回す。
「いや、そんな甘いものじゃないと思う。私たちが同じ夢を見て、話している以上、明晰夢以上と言うしか無いわね。」
水月ちゃんは、私にしがみつく様に右腕を掴む。何も分からない彼女には、不安と恐怖しか無いだろう。すると、車内のスピーカーからか、ノイズが入り、甲高い不敵な笑いが車内に響く。
「車内にて、不審人物が確認されました。全乗務員は、速やかに確保し、殺害して下さい。速やかに殺害して下さい。」
その声には、感情という要素は何処にも無く、只、事実を淡々と伝えているだけだった。
「フィっ、これ何なの?大丈夫なの?」
この放送は、壊れたように暫く続いた。
「今は、誰かが私たちを殺しに来て、私たちはそれから逃げる事しか考えなくて良いよ。この夢かも分からないものを調べるのは後回し。これが現実の列車と同じなら、前か後ろに非常用の急停止レバーかスイッチがある筈。生憎、窓の外が分からないから、どっちが前か後ろか分からないけど。」
基本、レバーは前方の進行方向にある事が多い。しかし、それを確かめる方法が無かった。
「...椅子の方向、全部あっちの扉に向かってる。あっちを進めば、一番前の操縦席があるのかも。」
水月ちゃんの冷静沈着な判断に、列車に私より慣れている事もあるだろうが、脱帽し見習うべきもの。私は少し苦笑する。
「ふっ、怖がってる割には冷静に判断出来るのね。多分この椅子は...、よし、外れた。この中に隠れながら前に進もっか。」
「うん。これなら、二人は入れる。」
「二人で入るつもりなの?」
「だって怖いもん...。」
水月ちゃんは、私の胸元に顔を押し付けて私の服をぎゅっと掴む。
「そうだね、昨日水月ちゃんの事は私が守るって言ったからね。」
「ありがと...。」
水月ちゃんは、状況も忘れ、嬉しそうに頬を緩めた。
/ 108ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp