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ビタンズの惨劇

第8章 断罪



ヤーシュ様が帰還されたのは、1ヶ月後のことだった。

実を言うと私は、ヤーシュ様がまた獣みたいに荒々しい様子でお帰りになるんじゃないかと、少しビクビクしていた。
けれどそんなことは全くなかった。

執務室に佇む私を見たヤーシュ様は、具合はどうだ、つらいことはないか、何か不自由しなかったかと、とにかく私を気遣って下さった。
まあ、ろくに話す間もなく仕事に戻ってしまわれたのはいつも通りだけれども。

不自由なんて、なんにもなかった。
ヤーシュ様は戦場にいる間も、私に仕事をさせるな体を気遣え常に医者をつけろと、使用人長に手紙で指示してくれていた。
私はそうとう快適に過ごせた方だと思う。

つわりに悩まされることはもちろんあったけれども。田舎の叔母がつわりと戦いながら農作業をしていたことを思えば、私は恵まれすぎている。

とにかく、ヤーシュ様は私を宝のように大切にしてくださった。
このまま順調にいけば私は彼の子を産み、はれて結婚となるだろう。

でもひとつ予想はずれだったことがあるの。

あれだけ子を楽しみにしていたヤーシュ様だから、仕事を少し減らして私との時間を作ってくれるんじゃないかな、なんて、少し期待していたのだ。
ところがビックリ、彼は前にも増して仕事に精を出すようになった。

「産まれてくる子供のために、社会をさらによくしておきたい。前から考えていた政策など、今進めておきたいのだ。時間がいくらあっても足りない」

だそうだ。

そんな訳でヤーシュ様は今、深夜だと言うのに、寝室の小さな机の上でバリバリ書類作りをしていた。
私は寝台の上に腰掛けて、彼の背中をぼんやり見ていた。

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