• テキストサイズ

ビタンズの惨劇

第1章 序章



「ハァ…ハァ…。ああ、もう…」

いつもならその背中に桶のひとつも投げつけてやるペシェだが、今は壁にもたれて地面に座り込み、自身の今後について考え出した。


「流血公爵」、それはここら一体を治める領主のアダ名だった。
冷徹非道な独裁者で、逆らうものは民間人も家臣も容赦なく死刑にし、さらにその死体を鉄杭に串刺して晒しものにする。そういうことで、とにかく恐れられていた。

その領主は何年か前から、館の使用人を頻繁に入れ替えるようになった。
しかも女ばかり。

高い給金の約束されている仕事だったので、最初は志願者がそれなりの数はいた。しかし1人、また1人と刑死者が出て、志願者は年々減っていった。
志願者が1人も現れなかったある年、領主は近くの村の長を数人呼び寄せ、そして

串刺しにして殺した。


それ以降、各地の村は交代交代で乙女を差し出すようになった。
今回はペシェがその1人に選ばれたのだ。

(流血公爵…。こわい。ヤダ、死にたくないなあ…)

ペシェはうずくまり、恐怖に身を縮こまらせた。

(でも別に、この家にいたい訳でもないし)

ネズミが足元を横切った。壁に穴が空いている。このネズミ、家の人間に見つかれば水に漬けられて殺されるだろう。

ペシェはゆっくりと立ち上がり、馬小屋の外に出た。

(仕方ない。諦めよう。この家だろうが領主様の館だろうが、我慢しながら生きることに変わりないや)

リーリーコロコロと虫が鳴いていた。
ペシェ、齢15の夜だった。

/ 70ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp