第8章 イタチ。切
しとしとと雨が降りしきる中、イタチは、ただ雨の中で立っていた。
「イタチさん……こちらに来ないのですか?風邪を引きますよ?」
岩陰に腰掛ける鬼鮫が、イタチに声を出す。
「ああ、少しだけ……打たれたいだけだ……」
イタチは小さく呟く。声を詰まらせながら。
「今思えば、花奏という女は、初めから泣いてました。……イタチさん、あなただけを真っ直ぐに見つめて……」
「あの人は……すぐに泣くからな……」
少し笑みを浮かべる。
「イタチさん、今、アナタも泣いているように見えますが……」
「……鬼鮫、オレが泣くわけないだろう……もう、あの人の事など考えていない…。ただ、こうして打たれていたいだけだ……次は容赦しない」
「…………………そうですか……」
鬼鮫は詮索を
諦めたように声を出す。
心の中で
イタチへ呟く。
しかしながら、
アナタが
先ほどから真っ直ぐに
見つめる方角は、
あの女が眠る宿ですよ……
鬼鮫は、降りしきる雨に濡れゆく
イタチの後ろ姿を、ずっと眺めていた。