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「大方に(おほかたに)」

第1章 七夕の夜


はぁ…。
携帯電話をベッドに放り、私は大きくため息を吐いた。
まだ光ったままの画面には、素っ気ないメッセージが表示されている。
「急に仕事が入った。今日は行けそうにない」
相手は真選組鬼の副長、土方十四郎…。
一応、私の彼氏だ。
私が土方さんの行きたがっていたイベントに当選し、ペアとして一緒に行って以来、半年くらいの付き合いになる。
忙しい人だし、命がけの仕事なのは理解しているが、逢う約束が急に消えるのは、やはり辛いもので。
テーブルに置かれた料理を、むなしく冷蔵庫に入れた。
酷使しているだろう体の事を考えながらも、好物のマヨネーズを使った料理も、明日私が自分で片づけよう。
例のイベントでもらった、マヨリーンの枕を抱きしめる。
微かに煙草の匂い。
溢れそうな涙を必死でこらえる。
こんな事で負けていたら、この先も続けていけない。
私は枕を抱いたまま、窓を開けた。
今夜は七夕だが、あいにく曇りで星は見えない。
織姫と彦星は…雲の上は天気関係ないから逢えているのかな。
1年に1度でも、確実に逢えるなら、その方がすっきりするのかもしれない。
そんな事を考えながら、いつしかウトウトしてしまっていた。
チャイムの音が聞こえた気がして、ハッと体を起こした。
変な体制でいたせいか、首筋が痛い。
今何時だろう、ちゃんと寝なきゃと時計を見た時、再度チャイムが聞こえた。
え?今深夜2時過ぎなんだけど。
恐る恐るドアスコープを覗くと…。
「土方さん!?」
慌ててドアを開ける。
「すまない、寝てたか」
「いえ」
私は曖昧に答えて、愛しい相手を部屋に入れた。
「今日は来ないかと思っていました」
出来る限り嫌な感じにならないよう言うと、土方さんは苦笑した。
「来れないと思ったが、来たくなったから来ちまった。面倒な後処理はザキに任せてきた」
「まぁ…」
山崎さんの顔を思い浮かべ、私も苦笑した。
「日付け変わっちまったが、七夕だな」
「えぇ」
開けたままの窓から見える夜空は、雲の切れ間から、星が見え始めている。
「織姫と彦星は、仲良くやってるのかね」
土方さんはそう言い、私の肩を抱いた。
「こっちも仲良くするか」
肩を抱いた手は、そのまま胸へと下り、着物の衿から直に肌に触れる。
「あ…」
私の口から息が漏れる。
仰け反ると、目の端に星が光るのが見えた。
やはり人間は、1年に1度では足りないようだ。
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