第8章 初鍛刀曰く、「身内に甘い」
「あ、梨都。ノートありがとね」
「んー?ああ、いいよ。どう?ムンフェスに向けては順調?」
「ふふふ、なかなか面白い感じになってるよ。そろそろツキ帝も開幕だし」
「いろいろ重なってるなー。千秋楽とその前日のソワレ行くから、楽しみにしてるぞ」
「はーい、楽しみにされてるね」
こぽこぽと注がれる紅茶。ツキノ寮に招かれた俺は、春と優雅にティータイム中である。
「あ、最近変わったこととかなかったか?」
「変わったこと?あー、また隼が魔界生物召喚したのと……ああ、最近海がよく出かけるようになったかな。いつもならオフの日は寮で過ごしてるのに」
「どこ行ってるとか分かるか?」
「ううん。でもこの間はちょっと疲れた顔してた。……大丈夫だって、それしか言わなかったけど」
「そう、かー……」
なんとなく、なんとなく見当はついた。
今回の任務で処理しなければならない歴史修正主義者。そいつが接触したのは海さんだろう。
大方海さんは「死んだ人を蘇らせる」というところに食いついたんだろう、想像に難くない。つまり俺は遅かれ早かれ海さんを敵に回す必要があるわけで。
「んん……まいったな……」
「うん?どうかしたの?」
「ああ、いや。なんでもない」
「そっか」
「……春、俺がいなくなったらどうする?」
「何急に。探すよ」
「探しても見つからない、もしくはもう死んでる、ってなったら?遺体は損傷が酷くて対面できる状態じゃないものとして」
「……通夜の席は泣き通すよ」
「じゃあ、蘇らせられるって言われたら?」
「それは……でも、俺はそこまでして会いたいとは思わないな」
「どうして?」
「だって、もし俺たちとの関係に疲れていたんだとしたら、蘇らせるのはエゴでしかないからね」
「……そっか。お前はそのままでいてくれよ」
「さっきからどうしたの?」
「いや、ちょっと気になっただけだ」
淡い鶸萌色の瞳が優しく細められる。伸ばされた手が俺の頭を撫でた。
「何かあったら、相談してね?」
「ん、わかった」