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月の子たちと神の愛し子

第1章 隼曰く、「面白い3人組」


「はぁ…」

梨都の唇から零れた小さなため息。
それは重苦しい響きを持って講堂の片隅に落ちる。

「おはよう、テンション低いね?」

「おわっ、春!?脅かすなよ…」

「ふふ、ごめんね」

梨都の頭を撫でて右隣の席に座るのは、彼の友人であり今をときめくアイドルでもある弥生春。
眼鏡をかけた理知的な風貌と穏やかな性格、そして見た目に違わず出来のいい頭脳でメンバーからの信頼も厚い人間だ。

「そんな辛そうなため息ついて、どうしたの?」

「大したことじゃない…けど、ちょっとな。バイト先の人間関係っていうか」

「また誰か引き抜かれたの?」

「まあ、そんなとこ」

梨都も大変だね、と苦笑する春の指先が梨都の髪を掬う。

「あとで学食行こっか。久々に一緒に食べたいな」

「始も一緒な」

「ふっ、呼んだか?」

とん、と梨都の背中に鞄を当てて笑う声。
梨都が振り向くと、睦月始がしてやったりという表情を浮かべていた。

「始!?お前まで脅かしに来るなよっ」

「悪い。つい、な」

「つい、で俺の心臓を止めないでくれますか!?」

「心臓止まったのか?」

「比喩ですが何か!?」

至極真面目な表情の始と驚きすぎてキレている梨都の対比が素晴らしい、と春はこっそり笑う。

「悪かった、そんなに怒るなよ。…そういえば、今日は海が帰国する日だな」

「え、また海さん外国仕事だったの?」

「外国、というか…無人島だな」

「また…?今度はちゃんと装備品あったんだよね?」

心配するところはそこなのか、と思いながら、始は梨都の左隣に腰を下ろした。

「心配するな。今回は装備品も安全対策も問題ない。黒月さんがきっちりやってくれた」

「安心と安全の黒月さん…!!」

…この会話、なんかズレてる気がする。

3人はそれぞれそう思ったが、終ぞどこがズレているのかに気づくことはなかった。
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