第2章 マリー様 七種茨
俺とは、常に同じ場所にいた。
俺が施設に入る前からあいつはずっとそこにいた。民間軍事会社へも俺より先に入っていた。
弓弦の次に古株で、小さい頃は親切にしてくれた。
思春期というか、そんな時にはもう意識していた。という存在から目が離せなかった。
弓弦と仲良く話しているとムカついたし、自分の目の届かないところにいないと不安だった。
束縛なんて大それた感情じゃなくて、醜い嫉妬心だった。
それが俺は気持ち悪い。
俺が、誰かを恋慕うなんて気持ち悪い。
「………………お前馬鹿だろ」
ジュンが三回目のその言葉をため息混じりに言った。民間軍事会社のことはバレているし隠す必要もないのだろうが、一応彼女のためにも伏せて説明した。
「で、さんは何て?」
「プロデューサーだからそういうのは困るんだそうです」
「うわっ、キッツ……」
哀れみの視線を込めてジュンは機械を操作する。よく見ると、曲をいれるヤツではなく食べ物を注文するヤツで……
「まぁ、お年玉も入ってくることだし奢ってやるよ」
「プリンアラモードですか!いや、なぜ俺は奢られるんでしょう!?」
「え、これって失恋慰め会だろ?」
「違いますけど!?」
変な方向に話を持っていかれて慌てて訂正するも、ジュンは注文ボタンをタップした。
「………はぁ、じゃ何の用なんだよ」
「………………………………………それは」
俺は口ごもる。あぁ、これだから気持ち悪い。何だか感情の整理が上手くいかない。気づけばジュンに連絡を入れていた。何だかばか騒ぎをしたい気分だったのだが、自分にそんなことができる間柄の知り合いは思い付かなかった。
「茨。」
そんな俺を見てジュンはニヤリと笑った。
「諦めたくないなら、手を貸しますよぉ~?」
突然の嫌みめいた物言いに、茨はキョトンとした。
が、すぐに笑った。
あぁ気持ち悪い。
本当に、自分が気持ち悪い。
でもまだ奥底に眠る彼女への感情だけは、驚くほど清らかなのだ。