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ドルフィンを待つ夜【インディゴの夜】

第2章 異変


「テツくん、今夜は飲むよ! ドンペリ入れよう! ドンペリ! もう貯金おろしちゃう!」
「ダメだよ。風音ちゃん、indigoで使うお金は無理せず、楽しめる程度でって決めてるだろ」
「テツくん……」
「無理されて、またしばらく来てくれなかったら、寂しいからさ」
 さすが、ずっと指名していたことはある。テツは風音の性分も金銭事情も全部、理解してくれている。勝手にヤキモチを妬いて、勝手に来なかっただけなのに、寂しいと言ってもらえて嬉しかった。
「じゃあ、ドルフィンの水割りで」
 運ばれて来た瓶は名前の通り、イルカのデザインだった。
 初めてindigoに来て、どのお酒を頼むべきか、風音が迷っていた時に、風音のバッグのチャームを見て、テツが勧めてくれたのだ。「イルカが好きなら、お勧めの酒があるよ」と。
 風音はバッグのイルカのチャームを外した。それから、バッグの中を漁った。
「……これ、安物だけどもらってもらえないかな?」
 銀色のイルカのペアのキーリング。銀色の板に向かい合うようにイルカが彫られ、ハートがデザインされている。
「テツくんが歩美さんとお付き合いを始めたら、二人にプレゼントしようと思っていたんだ。……代わりに私とペアじゃ嫌?」
 キュッとリングを握りしめて、ゆっくりとテツは首を横に振った。
「嫌じゃないよ」
 それから、テツは真っ直ぐな瞳で風音を見た。
「もしも、生まれ変わったら、男と女、どっちに生まれたかったとか、考えたことある?」
 真剣すぎるテツの表情に、一瞬、戸惑い、それから、風音はこくんとうなずいた。
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