第8章 出発前夜
いよいよ、壁外調査の決行が明日に迫った。
毎日続いた厳しい訓練も本日の昼までで終了し、後は明日早朝の出発に向けて各々身体を休めるのみとなった。
相変わらず私は厩舎で馬の世話をして、しばらくの間馬たちと戯れてから女性兵士用の宿舎へと戻ってきた。
役職付きの上官たちには個室が与えられているが、私たちのような平兵士は5~6人の大部屋での生活が義務付けられている。
もちろん、役職についてはいないものの経験の長い先輩兵士は、2~3人くらいのプライバシーが比較的守られている部屋の使用が可能になる。
とはいえ、上官だろうが平兵士だろうが、各部屋は同じ建物内にあるので、廊下でばったり上官と出くわすこともしばしばである。
本当に、兵団生活というのは気が抜けない。
私は、夕飯の時間まで中庭でスケッチでもしようかと思い、普段はあまり立ち入らない一階の廊下へと足を踏み入れた。
すると、廊下にズラリと並んだ扉のうちの一つが開いて、そこからナナバさんが顔を出した。
「あっ、お疲れ様です!」
私は、バッと敬礼をした。
そんな私にナナバさんは柔らかく微笑んで、「敬礼を解いていいよ」という風に手を振った。
「やぁラウラ、さっきぶり」
先ほどまで訓練で一緒だったため、本当にさっきぶりなのである。