第3章 あの日
それから数ヵ月後、開拓地での厳しい冬を越して巡ってきた春。私は訓練兵団へと入団した。
「貴様は何者だ!?何をしにここに来たっ!」
鬼のような形相をした禿頭の教官が、異常な程の至近距離から声を張り上げる。
「はっ!シガンシナ区出身、ラウラ・ローザモンドです!!巨人の絵を描くために来ました!!」
私の返答を聞いた途端、ギョロリと見開かれていた教官の瞳がパチクリと瞬いて、固く引き結ばれた口元がポカンと開いた。ほんの一瞬だったが、呆けた顔になったように見えた。
だがすぐにその顔は、険しくなる。
「……絵を描きたい、だと?貴様、ふざけているのか!?」
再び悪鬼のような形相になった教官に、「ふざけてなどおりませんっ!」と私は叫んだ。
「兄の遺言ですっ!私はっ、調査兵団に入って巨人の絵を描きますっ!」
無我夢中ではり上げた声は、立ち並んだ訓練兵たちの間をつきぬけて行った後、まるで溶けるように消えていった。
「貴様は兵士ではなく画家にでもなっていろっ!次っ!」
大きな手で頭を掴まれて、グリッと首を捻られるようにして後ろを向かされた。
後ろに立っていた兵士たちと向かい合わせの格好になって、目の前に立っている子たちと目が合った。
彼らの目はまるで、ヘンテコな生き物を観察しているかのように見えたのだった。