第20章 阿呆
時は少しさかのぼり、捕獲作戦で捕まえてきた巨人をハンジ分隊長がうっかり殺してしまってから少し経った頃のことだ。
季節はすっかり冬になっていて、窓の外ではたまにチラホラと雪が舞うこともあった。
巨人を死なせてしまってすぐの頃は分隊長も「あの時欲を出して、もうちょっとだけ切ってみようとか思わなければ今頃はまだあの子たちと…」とひどく落ち込んでいたのだが、数日もするとすっかり元通りの様子に戻っていた。
むしろ、次の実験用の新しいアイディアを考えついたらしく、以前よりもさらに精力的に研究活動に勤しまれていた。
分隊長のこのバイタリティーには、本当に驚かされる。
巨人実験の際に私が描いた絵は、研究班の報告書だけでなく、調査兵団の様々な活動において活用されていた。
壁外調査の報告書にはもちろんのこと、巨人研究班で作成した論文の挿絵や図解にも使われた。
そんなある日、いつものようにアトリエで絵を描いていた私のもとへハンジさんが訪れた。
「ラウラ!いるかい?いたな!」
バンッと勢いよく開けられた扉から分隊長が飛び込んできて、その後ろから眉を下げたモブリット副長が続く。
…分隊長がこの部屋を訪れる時は、大抵こんな感じだ。今日はいらっしゃらないけど、リヴァイ兵長がいたりすると「うるせぇ。もっと静かに入れ」と怒号が飛んだりする。
まぁ、分隊長は全く意に介さないんだけど。
見るからに興奮した様子の分隊長の頭は、まるで台風が通り過ぎていったようなボサボサ頭になっていた。
…副長に本気で怒られるまではテコでも入浴しないんだろうなぁ、なんて少し微笑ましく思っていた私に、分隊長は明るい声で言った。
「ついさっきエルヴィンから話があってね、ラウラの絵を訓練兵団の教本の挿絵に使えないかって言われたんだ!」
「…え?」