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泡沫人魚【狩人】

第12章 【番外編】ニンギョ×ト×クロロ


宝石が砕けて現れた眼を見て取り乱し力の抜けたチェリーをパクノダが支える。



「病院、連れて行く?」

「いいえ。このまま部屋に運びましょう」

「部屋?」

「二階は寝室になってるの」

「俺が運ぼう」



チェリーを横抱きにしてカウンターの中に入って奥の部屋に行くと小さな給湯室。すぐ左手には木製の人一人しか通れない様な狭い階段。



「フェイタンとシャルナークはピンセットと消毒液、絆創膏を買って来てくれるかしら?」

「は?買う?」

「………盗るでも構わないわ。傷は浅いって言ってたけど出血多いし量は多めに」

「おっけー」

「面倒臭いね」



軽い足取りで店を出るシャルナークと気怠そうに店を出て行くフェイタンを見送るとパクノダもカウンターに入って給湯室で作業をする。



「破片、結構刺さってるわね。顔じゃなくて良かった」



安堵の表情を浮かべるその姿は妹を心配する姉の様。



「階段上がってすぐ左に寝室があるわ。お願いね、団長」

「あぁ」





※※※





階段を上がると鼻腔を擽る甘い香り。必要最低限の物しかないシンプルな部屋。ふと目に止まるはベットの枕元にある絵。先日の盗品の絵画ほどでは無いが綺麗な絵。まるで家族写真の様な人魚の絵。



『ま…み………姉………』



呻くチェリーをそっとベットに寝かせるとマットレスが沈む。頬に張り付く藤色の髪の毛を払い除けてその滑らかな陶器の様な頬に指を滑らせる。



『ん…』



零れる吐息に背筋が栗立つ。



「こんな綺麗な髪の毛を…素顔を隠していたのか」



短くは無い付き合いで漸く見れた素顔。宝石の様な深紅の瞳は人間離れしていて藤色の髪の毛はまるで絹糸の様に柔らかく触り心地が良い。血色の良い唇の下のホクロは艶めかしい。
あどけなさ残る寝顔に妖艶な肢体は年齢不詳。



「美しい…」



今まで見て来たどんな人間よりも、どんな盗品よりも。その綺麗な髪の毛を一束掬いあげて口付けを落とす。



「欲しい」



その髪の毛が。
その瞳が。
その唇が。
その身体が。
チェリーの全てが。



-カツカツ-



と言うヒールの音と一緒にギシギシと音を立てる階段の音が聞こえる。



「お待たせ」



銀のトレーとプラスチックの桶を持ったパクノダ。
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