第10章 狩人のくちづけ【★】
「アズリ、探しましたよ」
食料保管庫の近くで、セバスチャンの姿を捉えた。
「ごめんなさい、セバスチャン」
そっと呟くと、彼は微笑んだ。
「アイザックさんに………、ルージュの給仕をお願いできますか?
あの方は三日とルージュを口にしていないのです。
あなたからなら、呑むかも知れませんし」
「は、はい」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「アイザック、私だよ。ルージュを持ってきたんだけど………。」
控えめにノックをして、呟いた。
「えっ………、アンタ!?」
ガタタタ………ッ。と何かが崩れるような音ともに、慌てたような彼の声がした。
「大丈夫? 入るよ」
「だ………ダメ! 開けないでよ」
鋭い声がドアノブに掛けた手を止める。
「でも………、アイザック。
あなたは三日もルージュを呑んでないって聞いたよ。
本当はなにか理由があるんでしょう?」
「っ………!」
扉の向こうで、吐息を封じる気配がした。
「アイザック、入るよ」
「だから! ダメだって………!」
彼の制止を聞かず、扉を開けた。
すると、すぐに目に飛び込んできたのは………。
床にはくしゃくしゃになった羊皮紙や書きなぐった紙切れがあちこちに散らばっていた。
そして、気怠げな視線を向けてくる彼がそこにいて………。
「ルージュ………、ここに置いておくね。きゃ………!」
手首を掴まれ、彼の腕の中へと倒れ込む。
「どうし………んんっ!?」
唇を吸われる。驚き開いた隙間に、舌をねじ込まれて………。
くちゅりくちゅりと脳裏に響き、思考が熱に染まっていく。
「やっ………アイザック! どうして………っ」
「………太宰となにを話してたの」
冷たい声音だった。
すぐに、先刻の出来事だと悟って。
「あれはただ………! きゃあっ!」
膝裏に手を差し込まれ、抱き上げられる。
そのまま乱暴に寝台へと運ばれ、怯えたように瞳を揺らした。