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君色に染まりて【イケヴァン長編◆裏】

第9章 ハナコトバ


(私が誰かを選ぶまで、ゲームは続くのかな………。)


「その声………。よし子さんかい?」

ザリッ、と土を踏む音がして、振り返る。



そこには………、優しく笑んだ同郷の偉人が佇んでいた。



「太宰さん………。」

唇にカーブを描くと、そっと頬に触れた手。


「どうしたのかな。とても哀しそうに微笑んで………。」

「え………?」

目元をなぞった指先に、初めて自身が泣いていることに気づく。






「あ……れ? これは………その、」

『涙を止めなければ』―――思うほどに雫は溢れて。




………と。彼はアズリを強く抱き寄せた。



「………っ!?」

吐息を封じる声で、彼女が驚いているのが分かる。


厚い胸を押しやろうとする手は、優しい手つきで封じられた。


「よし子さんは、朝顔の花言葉を知っているかな?」

え………?」

驚きで涙が止まる。そんな彼女を見つめながら、さらに続けた。



「すまないね。あなたの涙を見たくなくて、つい謎々を………ね」

どこか悪戯に笑んで、頬に触れた。


「ふふ………。なんですか、それ」

くすりと笑むと、髪を一房持ち上げられ………。


「ようやく笑ったね………。」

その髪に、口づけられる。


「………っ、」

みるみるうちに、林檎のように頬が染まる。



「さぁ………。セバスチャンがあなたを探していたよ、もう行くといい」

「は、はい。あの………、太宰さん、」

振り返り、彼女は呟いた。


「何だい?」

「………ありがとう。あなたのお陰で、また前を向けそうです」

花が咲くような笑みを残し、今度こそ立ち去っていった。


「俺も………、あなたが微笑んでいるだけで報われるよ。

たとえ、それが他の男の隣りで浮かべたものでも」

微笑み呟かれた言葉は、彼しか知らない。




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