第8章 惑わしの秘薬【★】
翌日。
アズリは図書室で蔵書の整理をしていた。
セバスチャンに渡されたリスト通りに、本棚へと仕舞っていく。
「おい、」
「きゃ………!」
突然響いた声に、彼女はびくりと身体を震わせた。
「なーに驚いてんだ、小娘よ」
それは、レオナルドだった。
くつくつと笑いながら、頤を持ち上げられる。
「休憩しねえか。ちょうど、セバスから貰った菓子があるぜ」
「え………、いいんですか?」
「いいも何も、嫌だったらあんたを誘わねえよ」
苦笑交じりに呟く彼に、アズリは微笑んだ。
「じゃあ………、ご一緒します」
「じゃ、茶………、用意してくれるな?」
「はいっ」
レオナルドと紅茶とファッジを挟んで休憩してから半刻以上―――。
ジワジワと体の奥から熱が蟠る、不思議な感覚を覚えて。
(な、に………? ぜんぶ、熱っぽい?)
「おいあんた………! あの紅茶はなんだ?」
怒ったような声が聞こえて、慌ててその方向につま先を目指すと………。
伯爵に詰め寄っていたのは………、レオナルド。
「あの茶葉にちょっとした細工を施した………、それだけだ」
「細工?」
そう、と彼は微笑む。
「君が彼女を求めずにはいられないように………ね」