第6章 絡めた感情【★】
黄昏に染まる屋敷へと帰ってきたテオは。
「………全く俺は、どうかしてるな」
嘆息交じりに、己の掌を見下ろす。
テオの手の中には………、彼女の好きそうなアイシングクッキー。
常ならば素通りする洋菓子店にこれが並べられているのを見止めて。気づけば、買っていた。
「あの女が俺のなんだ?
ただ伯爵にそそのかされて、屋敷にいるだけの存在だろうが」
半ば説き伏せるように、呟く。
見えてきた東屋に、彼女の姿を見止めて。
声を掛けようとしたけれど、ふと思いとどまる。
彼女を見つめて微笑んでいるのは。
(兄さん………。)
尊敬してやまない、己の兄だった。
フィンセントは彼女を見つめたまま、スケッチブックに鉛筆を走らせる。
胸に黒雲が立ち込めて、自分でも驚くばかりだった。
(俺は………、
あの女を愛してるのか………?)
自問は、ブランデーを流したような空に消えていく。
やがて完成したデッサン画を、惜しげもなく破りとり。
「っ………!」
彼女に、そっと手渡した。
フィンセントに向けられる微笑は、幸福に染まっていて………。
またしても、胸が焼けつくように軋んで。
目にしたものが信じがたい程に狂おしくて、中庭を去ろうとすると………。
「テオ………? そんなトコでどうしたの?」
耳をかすめた悪友の声に、ため息をついて応じる。
「兄さんがあの女のデッサン画を描いていた………それだけだ」
「フィンセントが………? あのコって本当、無防備だよね」
呟いて、蕩けるような笑みを浮かべる。
「俺は今夜、
あのコを抱くつもりだけど………、テオはどうする?」
「は………?」
自分でも嫌になる程に、間抜けな声だった。
「俺の推測が正しいなら………、テオ。
君はあのコのことが気になってる、違う?」
悪戯に笑んで。トンッ、と胸を軽く叩いた。
「イッショに抱こうよ。
あのコはもう処女じゃないみたいだし………、ね?」
「あぁ」
ぐしゃり、とラッピングされた袋を握りつぶし。二人はそっと中庭を後にした。