第5章 おもての裏で【★】
「ん………。」
目が覚めた時は、彼女の私室。寝台で眠っていた。
屋敷に迷い込んだ時のものとは違う、緋色のドレスを纏って。
「………目が覚めましたか?」
「セバスチャン………。こ
のドレスは………どうして、」
「伯爵からの贈り物です。
『君の意思も聞かずにすまなかった』―――とのことでした」
「………っ、」
彼女のおもてが泣きそうに歪む。
抱きしめたい衝動を押し込めると、掌に電流が走った気がした。
「………私から休暇を与えましょう。心の整理をその間にでも」
そう呟き部屋を出ていこうとした彼の袖口を、軽く引いた。
「此処にいて………、ください」
そのおもては、儚い微笑に彩られていて。
今度は………、抑えきれずに抱きしめた。
「っ………!」
ぎゅっ、と息もつけぬ程に包み込む。
「セバスチャン、どうしてあなたがそんな顔をしているの………?」
『あの日』と同じ切なげな煌めきが 灰の瞳に宿っていた。
「あなたは………、私のもうこの世にはいない妹に似ているんです」
抱擁を解くと、頬に触れた。
「セバスチャンの………?」
「えぇ。
泣き虫で、したかかで………、
ですが自分より他者を優先するような女性でした」
優しい眼差しのまま、『もう会えないと分かってはいるんですけれどね』と儚く笑んだ。
彼の手を、強く掴んだ。
掌から、案じる想いが伝わればいいのに。………そう強く願いながら。
「大丈夫ですよ、私はずっといますから」
呆然と、灰の瞳が微笑む彼女を映す。斜め上に、彼女のおもてが在った。
「セバスチャンの妹さんにはなれないけど、私が傍にいます。
だから………、心配しないで」
二つの瞳が見交わされ………。