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君色に染まりて【イケヴァン長編◆裏】

第4章 したたかな花【★】


真夜中になっても、アズリは眠れずにいた。


「はぁ………。」

夜着の上に薄いガウンを羽織っただけの姿で中庭へと降り立つと、夜空を仰いだ。



その姿は、さながら花の精のようで………。



夜露に濡れた花々が まるで宝石を纏ったように煌めく。

髪が風にさらわれないように抑えながら、しっとりとした薔薇の花弁に触れた。


「綺麗………。」


知らず唇に儚いカーブを描き、声に載せる歌。

祖母から教わった、古い時代の恋を謳ったもので………。


(おばあちゃん………。)


両親は物心つく前にそろって他界し

幼なじみでもあった友人たちを除けば

一番近くで彼女を見つめていたのは………、祖母だった。



歌を終えると、崩れるように座り込む。

その頬は………、濡れていた。


「っ………、ふ………っ」

そのまま、儚い肩を震わせていると。



背後から、ぐいと引き寄せられ………。



「っ………!」

気づけば、逞しい腕の中。





弱々しく胸を押しやろうとする掌は、優しい手つきで封じられた。
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