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DC短編

第2章 赤井さん、大事件です【赤井秀一】





「赤井さん、大事件です」

ほのぼのとした雰囲気は何処へやら。リビングルームに緊迫感が漲った。非常に由々しき事態であるとでも言うように。先程まであんなに和やかに炬燵を挟んで談笑していたではないか。強張った表情のに釣られて赤井も鬼気迫る顔でその先の言葉を待った。

「お茶が底をつきました」
「」
「お茶が底をつきました」
「……繰り返さなくても聞こえてる」

真面目に聞き返して大いに損を被った赤井が視線を横に投げてため息をついた。お茶がなくなった事が大事件だとしたら、赤井の仕事はもはや彼女にとってこの世の終わりではないか。いや、とりあえず今日も彼女の頭の中は平和なようで何よりという事にしておこう。


「キッチンにお茶っ葉はあるんですけどね」
「ああ、」
「取りに行ったら私寒さで死んじゃう」
「そうか」
「赤井さんは如何です?」
「……そうだな、死にそうだ」

自然と口の端が解けるのを自覚しながら答える。こういう、何気ないこと大袈裟にしてはしゃぐ彼女の子供っぽいところが退屈しなくて赤井は好きだった。コタツから出ても本当に死ぬわけではないし、赤井が「じゃあ俺が取りに行こう」というのは簡単なこと。それでもそれを言わなかったのは、同調する事で彼女の丸い目が嬉しげに細められるのを知っているから。むず痒そうに結ばれた口を緩めるその顔も、好きだったから。

「じゃあ、じゃんけんしましょ」

……そう来たか。
コタツに潜り込んでいる彼女が片手を必要な分だけ出したのを見て赤井が苦笑いをする。そんな遠回しな事をしなくても、柄にもなくに甘い赤井が頼めば取りに行ってくれることを彼女は知っているのだが、今はじゃんけんをご所望らしい。

じゃーんけーんぽん。

リズムをとって手を振って、出てきたのはのグーと赤井のパー。ちなみに感情的で、論理的な考え方をしない人は大体グーを出すらしく、彼女はその顕著な例と言えよう。



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