第8章 lumière douce【降谷零】
「……あー、大丈夫か?」
いや、大丈夫じゃないか。
当人の返事を聞く前に降谷少年はそう結論づけて頭を抱えたくなった。俺は悪くないと声を高々に言いたいが、しゃくり泣いている年下の女の子相手にそれではあまりに大人げない。
幼馴染に委員会で帰りが遅くなるからと伝えられたのが30分前。
いつもと違う、1人での帰路につき始めたのが10分前。
曲がり角で小さな女の子と衝突してしまったのがつい先ほど。
ちなみに弁明をするなら、少年は実に緩やかな歩調で角に差し掛かった。ぶつかった時の衝撃から思うに、急いでいたのは少女だ。まぁ、多少よろけたものの立ったままだった降谷少年に対して、少女の方は衝突の勢いを殺さずふっ飛んでしまったのだが。
しかし驚きはしたものの少年とて鬼ではない。自分より一回りは年下であろう少女の身を案じた。そして大きく目を剥いた。
コンクリートに尻餅をついた少女の服は泥だらけな上ぱっと見でも分かるほどの擦り傷が数ヶ所にあり、おまけに顔は涙でぐしゃぐしゃだったからだ。
え、俺とぶつかったから?
どんだけアクティブな転け方したんだ?
警察、保護者召喚、学校謹慎……と考えたくないワードが頭の中を飛び交って一瞬パニックになったが、ぶつかっただけであちこちに擦り傷を作るとは考えにくい。少女のそれは自分とぶつかる前にできた傷ばかりだろうと思われる。思いたい。
しかし、だからと言って「じゃあ俺はこれで」と言えるはずもなく。とりあえず少女を近くにあった公園のベンチまで連れてきた所で冒頭に戻るわけだ。