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ハリー・ポッターと恋に落ちた道化師

第33章 【月夜の晩】


 たった数時間にして、世界の常識が覆された。あの大量殺人鬼と言われたシリウス・ブラックが実は無実の罪で投獄されていて、なんと逆に被害者だと思われていたピーター・ペディグリューが真犯人だったのだ。
 その上、みんなを騙しスキャバーズと言う名のネズミに扮し12年間もロンの家で暮らしていたとは、きっと誰も予想だにしなかったろう。そして今まさに、自分はその人たちと一緒にいるのだ。クリスは内心ドキドキしていた。

 ピーターは紐で拘束された上に、手錠でルーピン先生とロンに捕まっている。そしてシリウスは気を失ったスネイプを杖で空中に浮かべ、少々乱暴に運んでいる。その後ろにハリー、クリス、ハーマイオニーが続いていた。
 『叫びの屋敷』を出ると、一向は暗くて狭いトンネルの中を歩かなくてはならなかった。ルーピン先生、ピーター、ロンの3人は横一列になって苦労してトンネルの中を進んだ。
 皆身体をくの字に曲げ、ハアハア言いながら長いトンネルを歩いた。背の高いシリウスは特に苦労しているのか、それともわざとなのか、宙吊りになったスネイプの頭をトンネルの天井にぶつけて歩いていた。

「ハリー……これからピーターをディメンターに引き渡すと言う事が……どういう事なのか分かるか?」

 狭いトンネルを進みながら、シリウスがためらいがちに言った。微かに声が震えている。

「貴方の無実が証明されます」
「ああ、そうだ……あ、いや、しかしそれだけでは無い」

 シリウスはしどろもどろ口にした。必死に言葉を選び、まるで言いたい事が喉の奥に引っかかっている様だった。

「もしかして誰かから聞いたかもしれないが……私は君の名付け親なんだ」
「ええ、聞きました」
「だから……その、なんだ、もし両親の身に何かあった時は、私が君の後継人として、君の面倒を見る様にと言われていて……」

 シリウスはまるで一世一代の愛の告白するかのように緊張していた。それに応じて、ハリーも緊張している様だった。話しながら、2人は想像もつかないほど神経が高ぶっていた。ハリーは黙ってシリウスの次の言葉を待っていた。
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