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ハリー・ポッターと恋に落ちた道化師

第20章 【チョコチップクッキー】


 先生の目が、優しさから少し真剣な眼差しに変わった。その目を見ていると、全てを吐露して楽になりたいような、縋り付きたいような、言葉に出来ないもどかしい思いが込み上げてきた。

「先生、私……最初の授業でボガートが私自身に化けたのを覚えていますよね。その時唱えようとした呪文も……私は、私は自分の中に眠る力が怖いんです。私の左手首には――」

 “それ”を言おうとして、クリスは一瞬戸惑った。父の言葉が脳裏に浮かぶ。あの甘い禁忌の約束が。しかし――クリスは思い切って打ち明けた。

「私の左手首には――『例のあの人』が側近に付ける闇の印があるんです!」

 言ってしまった。遂に、父様とダンブルドア校長以外知らない秘密をルーピン先生に明かしてしまった。
 先生はどんな顔をするだろうか。もう、優しい笑顔どころか、嫌悪に満ちた顔しか向けて貰えなくなってしまったのだろうか。恐る恐る先生の顔をのぞくと、先生は穏やかな顔をしていた。

「よく勇気をもって打ち明けてくれたね、ありがとう。本当は――君が打ち明けてくれる前から知っていたんだ。正直に言うと、私だけじゃない。きっと君が思うより多くの大人がその事実を知っている。ただ皆忘れているだけでね」
「えっ?――まさか、だって、父様はそんな事、一言も……」
「君のお父さんは、その方が君の為になると思って言わなかったんだろう。でもクリス、真実を知って、それに立ち向かっていくのはとても勇気が要り、人生に必要な事だ。だから忘れないで、君には、君を支えてくれる沢山の人がいる事を。そして私も、その1人だと言う事をね」

 先生はクリスの頬に手を当て親指で涙をぬぐうと、いつもの朗らかな笑顔に戻った。

「さあ、チョコチップクッキーを包んであげるから、それを持って皆と仲直りしておいで。まずは第一歩だ」
「はっ、はい!」

 クリスは甘いクッキーを袋いっぱいに詰めて貰うと、ぺこりと頭を下げて部屋を出た。その後姿を見ながら、ルーピンはぽつりと呟いた。

「あんな事があったのに、本当に良い子に育ったみたいだ。これなら安心できるよ、クラウス――」
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