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【名探偵コナン】幸せを願う

第4章 暗転と覚醒


ついに流れ出した涙を隠すように顔を覆った灰原の足から力が抜け、懺悔するように膝をついた。咄嗟にその腕を掴んだコナンも顔を顰め、唇を噛み締めたまま呆ける男に頭を下げた。

名も知らない子供の悲痛な告白に衝撃を受け言葉に詰まる。それでもそれは違うと首を振り、声に出そうと口を開くよりも早く否定を口にした隣の男の言葉に今度こそ修平の脳は停止した。

「それは違うよ。彼女の事故は僕のせいだ」

膝をつき、灰原を見つめていた修平の視線が後ろに立つ男へと向けられる。問い詰めるようなそれを受けた降谷が瞳を伏せて語った内容は、弟の顔から血の気を引かせるには十分なものだった。
そして、修平は数年前から度々南海が幸せそうに語っていた名も顔も知らぬ恋人がこの男なのだと確信した。

容姿や名を聞いてもはぐらかされ、会わせろと言えば”また今度”とかわされた。
一度、せめて写真だけでもと縋った時の悲しそうな笑みは今も修平の脳に鮮明に記憶されている。
何度遊びや詐欺の可能性を訴えただろうか。だが、その度に大丈夫と笑みを零す姉に次第に諦めが強くなっていったのも事実だった。
そんなとき、泣き枯らした声で別れたと告げられたのだ。修平の心境は図るまでもなく安堵だった。
それなのに、と握り込んだ拳にさらに力を込めた。

あんなにも愛していた恋人に忘れられ、自分以外の女と結婚するために別れさせられ、忘れようとしていた時に新しい女を横に置く恋人を見るだけでも辛いというのに、心の次に身体もなんて。

「…っそんなのありかよ」

気が付けば修平の頬は濡れていた。膝をついていた体はついに完全に腰を下ろし、椅子の背凭れに力なく寄り掛かったまま嗚咽を漏らした。

白い室内に修平の抑え込まれた嗚咽と鼻をすする音が小さく響いている。
その時、床に座り込んだままの男をただじっと焼き付けるように見つめていた降谷の足が動いた。
視線の先にいたのは南海の肉親の崩れ落ちる姿に罪悪感が抑えきれなくなったコナンだった。爪が食い込む程に握られた小さな手を震わせながら自分のせいだと口を開こうとした瞬間、大きな手が頭に軽く乗せられた。





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