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【名探偵コナン】幸せを願う

第4章 暗転と覚醒


ピタリと止まった南海に子供たちは気づくことなく進み続け、あっという間にその姿は見えなくなった。
頭では追わなければいけないと理解しつつ、縫い付けられた視線は男の後ろ姿から逸らされることはなく。電池の切れた人形のようにただそこに止まった。

瞠目する南海の視線の先にいる降谷の奥から一人の女性が現れた。正に大和撫子と呼ぶに相応しいその人はデートを終えたのか頭を下げ、そのまま此方へと歩を進めようと足を動かした。

女性が降谷とすれ違おうとしたその時、伏せられていた大きな瞳が上がり南海を捉えた。

きょとんとした表情で此方を見る女性の足が止まる。動かない婚約者を不思議に思ったのか降谷の体が動く。振り向き、その蒼が向けられるより早く南海は来た道を走り出していた。

未練がましい女だと気づかれたくない。資格なんてありはしないのに嫉妬してしまう。目を見ておめでとうなんて笑えない。

もう大丈夫。大丈夫なわけない。
幸せなら嬉しい。胸が苦しい。辛い。
どうして笑えないの?

どうして私じゃいけないの…?

逃げて。逃げて。会ってはダメ。此処はダメ。逃げなければ。


ぐちゃぐちゃとかき回る南海の思考の中ではっきりとしていたのは、逃げなければ。だけだった。

子供たちのことを忘れ、丁度良く青に変わった横断歩道を形振り構わず駆け抜けようとした。

「南海さん!!!」

切羽詰まったようなコナンの大きく鋭い声が辺りへ木霊した。
瞬間、まるで隕石にぶつかられたかのような強い衝撃が南海を襲い、身体は宙を舞った。何が起きたのかも分からないまま背中から地面に打ち付けられた身体は息をすることもうまくいかず、痛いのか、寒いのか、それすらも曖昧になっていく。
必死に開けた視界に大人びた子供の姿を入れたとき、南海の全ては暗転した。





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