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【名探偵コナン】幸せを願う

第4章 暗転と覚醒


祝日の午後、杯戸町にある1DKの室内では動きやすい服装に身を包んだ南海が慌ただしく動き回っていた。

コナンたち二人との待ち合わせは米花駅。

まだそこには行きたくないと内心で渋る南海だったが、”最後に思い出の地を回りたいんだ”と悲しげな声を届ける電話に崩れながら白旗を上げた。純粋に自分を慕う子供たちに断りを告げることなど出来るわけがなかったのだ。

スピーカー越しに出会いの喫茶店や公園、よくサッカーのために訪れた空き地などそれぞれの思い出の地を口に出すと、以前免許はあっても車がないと話した南海にコナンがレンタカーで行こうと提案した。それに苦笑いで言い淀むと少しの間の後、固い声で灰原が"運転はいつ以来?"と恐る恐る問いかけた。

『…教習所以来』

項垂れたまま弱々しく発されたその言葉に、静かに悲鳴を上げた二人がレンタカーの提案を白紙に戻したのは言うまでもない。


◇◇◇


米花町に呼ぶのは忍びないのか終始此方を窺うような声色を思い出し、くすりと息を漏らした。全身鏡に映る顔は久しぶりの遠出に燥いでいた。

『いってきます』

米花駅を目指し、電車に揺られる南海の表情は目的地に近づく度に徐々に暗くなっていく。頭を占めるのは別れた恋人のことばかりだった。

元気かな。退院したかな。会ってしまったらどうしよう。往来で泣いてしまうかもしれない。…もう結婚したかな。

追い出そうとすればする程南海の思考は降谷で埋め尽くされた。
降谷に会ってはいけないと忠告する心とは裏腹に、姿だけでもと望む自分がいることに戸惑う。

諦めると決断し、ぐるぐると鎖で抑えつけた恋心は降谷との思い出が蘇る度に抵抗するようにガタガタと揺れる。そんな自分の弱さに自嘲した。




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