第8章 (6)Hot & cold
「はぁ…これくらい距離取れば大丈夫かな」
桐嶋さんとひかるくん達を鉢合わせないためにダッシュで逃げた私は、走った疲れでへろへろになっていた。
高校を卒業してからまともな運動をやる機会も減って、体力が随分落ちているのを感じる。
「…あ、皆心配してるだろうし、ちゃんとメールで謝っておかなきゃ」
ひかるくんたちへの謝罪の為、バックから携帯を取り出す。
その時、いきなり私の傍に2つの人影が降りた。
「ねぇねぇおねーさん今1人?」
「俺らと遊びに行こうよー」
うわ……と気づいた時には遅く、私は完全にナンパ男にロックオンされている。
普段ならこういう奴が出現する時間帯に1人で大通りに行くのを避けていたのだが、桐嶋さん達から距離を取るのに必死ですっかり抜け落ちていた。
こういうのは無視が1番。話を聞かずに無言で歩き出す。
「ねぇー、無視ー?」
「話聞いてよー」
しかしナンパ男たちはしつこく、なかなか引き下がろうとしない。
知らない人に迫られるストレスは尋常じゃなく、頼むから本当早くどっかいってくれ以外の感情がない。
ここにもし桐嶋さんがいたらこんな男達、すぐに蹴散らしてくれるのに…とつい考えてしまう。
流石に都合が良すぎるし、私は桐嶋さんの恋人でもなんでもないから近くにいたとしても助けてもらえるわけないのにね。
「おい、透。こいつらお前の知り合いか?」
「えっ」
突然、聞き覚えのある声が背後から聞こえる。低めでよく通る男性の声。
振り返る私の視界の隅で、金髪が揺れた。
「桐嶋さん!?」
そこにいたのは、先程私が思い浮かべた張本人。
まさか本当に再び目の前に現れるなんて思いもよらず、返答にすら答えられないまま固まってしまう。
しかしナンパ男達には桐嶋さんの姿だけでも効果的だったようで。
「あ、あー…連れがいたのねー…」
「じゃ、じゃあ俺たちはこれで…!」
睨みをきかせた男の登場に、彼らは顔をひきつらせ、まるで猛獣から逃げるシマウマのように一瞬でその場から姿を消した。
あっという間の出来事に、私の口もぽかんと開いたまま塞がらない。
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