第7章 常闇(黒尾鉄郎)
頭の芯まで蕩けそうな指の動き。
それは私を翻弄する。
彼の初めての相手になれないことはどこか悔しいけれど、彼に初めては似合わなくて。
いつも余裕のある雰囲気で、その美麗な容姿や甘いテノールに魅了されなかった人はきっといないだろう。
それは、決して、私の長すぎる片想いのせいではないと思う。
本当に彼が好きだった。
もうずっと、その背中だけを追いかけてきた。
彼は私のことを妹くらいにしか思っていない。
だから、こうなることは、本望だったのに、私は今、怖くて仕方がない。
なんでだかわからない。
未知の世界に踏み込むのが怖いのか、彼自身が怖いのか、全然、わからない。