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【短編集】慟哭のファンタジア【HQ】【裏】

第34章 主よ甘き日々を終わりまで5(烏養繋心)


「次の土日、空けとけるか?」
お店の片付けをしている時に静かにそう聞かれ、たまたまスーパーのバイトがなかったのでこくりと頷いた。
「土日、どっちもだぞ、出掛ける」
かわりに店番をしてほしいということだろうか。
「…はい、朝は何時くらいからお店開ければいいですか?」
と聞くと、怪訝そうな顔をされ、1分くらい間が空いた。
「ちげえよ、おめえも行くんだよ!!!」
とツッコまれ、やっとそうなのかと納得した。

「おでかけ…」
布団の中で静かに呟いた。
これは、デートと呼んでもいいのだろうか。
それとも、そういうことをするだけの関係でも一緒に出掛けることがあるんだろうか。
もしかして私の気持ちがバレていてお情けで…?
考えれば考えるほどわからないので、諦めて寝ようと決めた。
でも、眠れなかった。

当日まですっかり睡眠不足のまま、早朝に出発し電車に乗りバスに乗り、着いたところは小さな温泉街だった。
少し昔に来たような懐かしい街並みはそこら中に湯気を上げ、そこかしこから独特のにおいがする。
初めての経験にちょっとした感動を覚えた。
「もっと若い子が楽しめるとこにしたかったんだけどよぉ…近場で旅行ってだいたいここらへんになるんだよなぁ…」
少しだけ悩みながらおずおずと私に説明してくれた繋心さんの心遣いがとても嬉しい。
「全然、どこでもいいですよ」
一緒ならきっとどこでも楽しいと思ったけど、口にするのは止めておいた。
口ごもっていると、自然に手を取られて変な声が出そうになった。
「迷子になったら探せねえだろ」
自分のより大きな手が包んでくれるようで、恥ずかしいとかより安心する。
一生繋いだままでもいいのに、なんて欲張りなことを考えて少しだけ反省した。
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