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【短編集】慟哭のファンタジア【HQ】【裏】

第25章 白昼夢幻想曲5(烏養繋心)




つい気になって、その日の夕飯に、母に聞いた。
「スランプって、なったことある?」
「そんなの、才能がない人の言い訳」
聞いた私が間違っていた。
こんな、落ち込むだけの返事。
そうなることはわかっていたのに。
「そういう言い訳?」
「……音楽に、興味が湧かなくなった」
「……」
「譜面が頭に入らない、聴いても覚えられない、読んでもわからない、指も…動かない」
「こんな、大切な時に……!!」
正直に言ってみたが、案の定イライラさせるだけだった。
「今すぐ練習しなさい!!!」
「……無駄だと思うけどね…」
ほとんど手付かずの食事を残して、ピアノの前に座る。
(ほんと、不思議……)
突然動かなくなるなんていうことあるんだと。
自分自身に驚く。
指馴らしの曲ですら、動かない。
母の怒声も勝手に通りすぎていく。
ベッドに寝転んだのは、深夜過ぎてからだった。
「あー、参ったなー……」
それでも、夕方に彼に会ったお陰か、焦りは大分なくなったように思う。
眠くなるまでの間に、メッセージを送った。
寝ているだろうか。
『弾けませんでした、治るかな?』
『そのうち』
短い返事がすぐにきた。
思いがけないことに、ニヤニヤしてしまう。

(留学……)
確かに、私に残されているものは、精々ピアノくらいだ。
才はないくせに、無駄な努力のお陰でここまでやってこれた。
勉強もそんなに得意ではないし、運動も苦手な分類。
そう考えると、将来的には音楽の世界でやっていくのが無難だろう。
それでも、この地を離れ、この人なしでは、私はあっという間に崩れてしまいそうだ。
出逢ったときの、海の一件しかり。
私は、すっかり依存してしまっている。
そんな関係では良くないのはわかってはいる……。
いっそ、離れた方が、いいのではないか?
そもそも、好きなのは相変わらず私だけなのでは?
どんどんと嫌な方へ考えが勝手に進んでいく。
寝ようと思ったのに、ひんやりとした布団に入るが、結局、不安で眠気は来なかった。
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