第2章 『頑是ない歌』
港に四人の男女がいた。
うち一人の男は地面に突っ伏していて、残った男二人と女一人は冷ややかな目で男を見下ろしている。
「手前ら如何して薬なんかに手ェ出した?」
ヨコハマの港を拠点とする組織、ポートマフィア。その構成員の一人中原中也は既に虫の息となっている男の髪を乱暴に掴みながら問い掛ける。
男は言葉を発することも難しいようで、ぐっと唸るだけで何も答えない。
「聞いたって無駄だよ中也。彼女は御立腹だ」
「太宰五月蝿い。私は怒ってなんかいないよ。そして此の屑から理由を聞く事は任務には無い。あくまで塵掃除だ」
中也に掴まれたままの男に、コツコツとヒールの音を鳴らしながら女が近付くと、男は酷く怯えた様子でヒュッと息を飲んだ。
女はそんな男の様子を冷徹な目で見下ろす。
すると女が触れていないのにも関わらず、男の体は中也の手を離れ傍にある敷石を噛む体勢になった。
「中也抑えて」
「五月蝿ぇ!指図すンな!」
中也も手を触れていないのにも関わらず、男の体はまるで金縛りにでも遭ったかのように動かない。
指一本動かせない状況に男は声にならない声をあげた。
「嗚呼もう、何奴も此奴も五月蝿いな」
女は片足を上げると躊躇うことなく男の頭を踏み付けた。
「ぎゃあああぁあぁあああ!!!」
ゴリッと嫌な音がし、痛みに悶絶する男。
体は動かない侭、ただ激痛を叫ぶことで紛らわせようとしていた。
「痛い?痛いよな。すぐ楽にしてあげよう」
女は外套の胸元から銃を取り出し、スライドを引く。
酷くゆっくりとした動作だった。
中也と太宰は感情の無い目でその様子を眺めていた。
安全装置が初めから外されている拳銃。
女は引き金に指を掛ける。