第5章 『 汚れっちまった悲しみに』
「却説、仕事だよ。中也」
「嗚呼」
二十一時半。二人は動き出した。
「もしもし。何か動きはあった?──そう。今から中也と向かうからもう少し頼んだよ」
「動きは特に無いみてぇだな」
「嗚呼。相手が全て話を知っている者だったら楽なんだけど...」
「そうだな」
車内でそのような会話をしていると、直に店へと到着した。
店内は既に照明が落とされ、静まり返っており、人が居る気配はない。
「やあ広津さん。お仕事ご苦労様」
「従業員は全員帰宅したよ」
「じゃあ戻って来た人間が黒だという事だ」
取引時間五分前。その人物は店に姿を現した。
「今晩は。ウエイターのお姉さん」
「貴女は...この間の...」
その人物は以前訪れた際にアイスティーを泰子へ零した、否、零させられた従業員だった。
「矢張り君がこの店で薬の売買を行っていたんだね」
「薬...?何の事ですか」
「おや、恍けるのかい?私達が事務所に来た後で監視カメラの映像を熱心に見ていたじゃないか」
クスリと笑いながら泰子が言う。
「カメラをハッキングさせて貰った。勿論私達の映っていた映像は細工してある。私物のパソコンだと足が着くと思って事務所の物を使ったのかな」
「──何が目的?」
「開き直りが早くて助かるよ。君が知っている事を全て話して欲しい」
「嫌だと言っ──」
「君に拒否権があるとでも?」
女が言い終わるより前に泰子が言葉を遮る。口元は弧を描いているが、目は一切笑っていない。
「私は中也と違って拷問なんてする趣味は無いのだけれど...。君が話してくれないなら仕方が無い」
嫌な気配を感じ取り、ジリ...と女は後ずさるがそれと同時に店の壁へ体を叩きつけられる。
短い呻き声をあげ、その場から逃げようとするも体は壁から離れることはない。